脂質異常症
コレステロールが血管の膜に蓄積すると、しだいに動脈硬化プラークが形成され、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞の原因となってしまいます。脂質異常の主な原因は食生活や喫煙・飲酒過多、運動不足、遺伝などが考えられます。 LDL-C値(悪玉コレステロール)などの目標値や治療は一律でなく、動脈硬化性疾患の発症リスクを考慮しながら、各個人に合わせた治療を行います。食生活はどうすれば?悪玉コレステロールはどこまで下げればよいの?薬物療法を行うべき?
ひとりひとり治療目標が異なります。
診察してお答えします
脂質異常症とは
「高脂血症」のほうが、なじみが深いと思います。HDL-C(善玉コレステロール)が低すぎることも、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症などの心臓の血管が狭くなることで生じる病気)が増えることがわかっています(NIPPON DATA80)。
そこで、 LDL-C(悪玉コレステロール)、HDL-C、中性脂肪が基準内にないことを総称して、「脂質異常症」と呼称することになりました。
なぜ脂質異常症になるの?
脂質異常の主な原因は食生活(カロリー過多・飽和脂肪酸過多・糖質過多)や喫煙・飲酒過多、運動不足、遺伝などが考えられます。女性では閉経の影響でLDL-Cが高値となります(閉経後脂質異常症)。遺伝性としては家族性高コレステロール血症が多く、家族歴と身体所見(黄色腫・角膜輪)に特徴があります。甲状腺疾患やネフローゼ症候群のように他の疾患に伴って脂質異常症を合併することもあります。このように原因はさまざまですが、自覚症状が全くないことがポイントです。
脂質異常症になるとどのような問題があるでしょうか?それは長年、脂質が血管の内側に蓄積することで、動脈硬化プラークが形成され、冠動脈疾患や脳梗塞の原因となってしまうことにあります。
家族性高コレステロール血症では遺伝子的に生まれながらLDL-Cが高値が続いているため、早期に冠動脈疾患を発症してしまいます。スタチンなどによる治療で、冠動脈疾患の発症時期を遅らせることができます。
冠動脈疾患をすでに発症している場合や、リスクが高い場合にも、LDL-Cを累積させないことで、冠動脈疾患の発症を防ぐことができるので、治療を行うことがとても大切になります。
脂質異常症の診断は?
脂質異常症の診断は空腹時(10~12時間の絶食)の血液検査で行います。HDL-CやLDL-Cは食後の採血でも影響はあまり受けないのですが、中性脂肪は食事から吸収したカイロミクロンに主として含まれるため、影響を受けて食後4~6時間でピークになります。食後採血で診断する場合や中性脂肪が400mg/dLを超える場合には、Non-HDL-Cを測定することが推奨されています。
中性脂肪が1000mg/dLを超える場合で、血清静置試験や電気泳動法などでカイロミクロンの存在があり、膵炎を繰り返したり特徴的な身体所見がある場合には、原発性高カイロミクロン血症を考えるため精査が必要となります。
その他の場合で中性脂肪高値の場合には、補助的検査として、リポ蛋白分析やアポリポ蛋白検査などによって、動脈硬化リスクを知ることが可能です。
LDL-Cが180mg/dL以上では家族性高コレステロール血症の可能性もあるため、詳細な家族歴とアキレス腱厚の測定を行います。
画像検査も有用です。頚部超音波では、くびの血管の厚さを計測することで、動脈硬化の具合を知ることができます。
治療は一律でなく目標は各個人で異なります
なるほどそうなのですね。
私の場合では治療は必要ですか?
コレステロールの目標値は?
HDL-Cや中性脂肪の管理目標値は同一ですが、LDL-Cは患者さんの基礎疾患やリスク因子により管理目標が異なっています。簡易な方法では動脈硬化性疾患予防ガイドラインにより、下記のフローチャートにより目標値を設定します。
詳細な方法ではリスクの分類を久山町研究によるスコアを算出することで分類します。
特に危険因子のない方は低リスク群です。基本的には食事・運動療法を行い経過を観察します。
冠動脈疾患の既往症がある場合には二次予防の人のLDLコレステロールの管理目標値は100mg/dL (他にリスクが重複している場合は70mg/dL) 未満となり、健康診断の目標値である140mg/dLよりもさらに低く保つ必要があります。
生活習慣を改善することが基本になります。目標体重を設定して、過食を避けて適度な運動を続けましょう。
脂質異常症の方すべてに該当することから解説します。
最も摂りすぎに注意するものは飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸は肉の脂身・ホルモン・皮などの動物性脂肪に多く含まれており、LDL-C上昇の原因となります。
トランス脂肪酸もLDL-C上昇させ、HDL-Cを低下させる作用、インスリンの効きめを悪化させる作用があります。トランス脂肪酸はマーガリンだけでなく、植物性油脂にも含まれています。
加工品ではクッキーやドーナッツ、ケーキ、チョコレート、ポテトチップスなどの間食時に摂取する場合が多い物質で、食事では揚げ物全般に多く含まれています。
トランス脂肪酸を避けるためにはリノール酸を多く含まない油が基本なので、コーン油・大豆油・綿実油の摂り過ぎに注意しましょう。
オレイン酸も含まれた米油やオリーブオイルが良いとされますが、酸化しないよう保存に注意をしましょう。
オメガ3系脂肪酸(n-3系多価不飽和脂肪酸)は中性脂肪の合成をおさえますが、摂取量が不足している方が多いので、積極的に摂りましょう。
オメガ3系は魚類や豆やナッツ類に多く含まれています。
野菜やきのこに多く含まれる食物繊維や植物ステロールは摂取量を増やすとLDL-Cの低下が期待できます。植物ステロールは特に豆類、穀類の胚芽に多く含まれる天然成分です。
飲酒をされる方であれば、酒量を適量に抑えることは脂質異常の改善にとても有効です。節酒をすると中性脂肪の合成がおさえられます。
アルコール摂取量は簡単に計算できます。例えば5%のビールであれば
0.05×500ml ≒ 25g
と計算できます。流行のストロング系は350mlだと許容量を超えてしましますので、350ml缶の場合は7%までにしましょう。
上記に加えて、脂質異常症の特徴ごとに以下を強化すれば、なおよい効果が得られます。
糖質とトランス脂肪酸のとりすぎには注意しましょう。大豆油、コーン油に多く含まれるn-6系多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸でコレステロールをさげますが、HDL-Cまで低下させてしまうので、過剰摂取に注意しましょう。
食事・運動療法を解説しましたが、遺伝や体質的な要素もあり、目標値まで改善しない場合には、薬物療法を併用します。
スタチンは別名HMG-CoA還元酵素阻害薬と呼ばれ、LDL-Cを生み出す酵素を阻害してLDL-Cを低下させる薬です。とても有効性が高く、これまで数々の大規模な研究で、心臓病による死亡を減らす結果が出ています。単剤で管理目標値に到達しない場合には、エゼチミブを併用した場合に有効性が確認されています。エゼチミブは小腸コレステロールトランスポーター阻害薬と呼ばれ、食事由来のコレステロールが小腸から吸収され血液中に移行するのを抑える作用があります。
すでに冠動脈疾患がある場合で、リスクが高い場合には、LDL-Cの管理目標が70mg/dL以下になります。スタチンとエゼチミブの併用でも目標を達成しない場合には、ヒト抗PCSK9モノクローナル抗体製剤を用いる場合があります。
中性脂肪を数値的に最もさげるのはフィブラート系です。
中性脂肪が1000mg/dLを超えると急性膵炎を起こすリスクが高くなるので、この場合はフィブラート系を用いることが多いです。
2型糖尿病があり低HDL-Cを併存している場合には、スタチンとフィブラートを併用することで、心血管イベントリスクが低下することが分かっています(ACCORD-Lipid研究)。
その他の場合にはフィブラート系で数字を下げても動脈硬化の改善に必ずしも影響しない場合があります。
中性脂肪の”量”だけでなく、”質”を分析することで、どのような患者さんであれば治療の価値があるのかをある程度判別することが可能です。具体的には、中性脂肪を分析し粒子の小さな脂質が含まれている場合には薬物療法を考慮しています。
HDL-Cが20mg/dL未満で極端に低値のときで、蛋白尿・角膜混濁・貧血などが併存する場合にはLCAP欠損症を考えますが稀です。
HDL-Cを上昇させるCTEP阻害薬の開発が難航しており、現時点では、有用な薬剤の登場が期待できない状況です。スタチンやエゼチミブ、ニコチン酸誘導体でも多少HDL-Cは上昇しますが、効果はわずかです。フィブラートがHDL-Cを最も上昇させますが、2型糖尿病に対して行ったFIELD試験では冠動脈イベントリスクは減りませんでした。ただし2型糖尿病で中性脂肪が高い群については、FIELD試験で有意に心血管病リスクを減らすため、フィブラートでの治療が有用と考えられます。繰り返しますが、確実に有効な薬はありません。最も大事なのは、適度な運動と喫煙しないことです。p>
健康診断などでLDL-Cが毎回高めでも、自覚症状は全くないため実際に医療機関を受診する方は少ないのが実際です。場合によっては年々冠動脈疾患を発症するまでの時間が少なくなってしまう場合がありますので、一度は精査を行い、積極的な治療を行うべきか判断することをお勧めします。脂質異常症の治療方法は?
食事療法
LDL-Cが高い場合
中性脂肪が高い場合
HDL-Cが低い場合
運動療法
薬物療法
01高LDLコレステロール血症
02高トリグリセライド血症
03低HDLコレステロール血症
脂質異常症で受診される方へ