骨粗鬆症
骨粗鬆症になると、転倒した際に骨折しやすくなったり、腰が曲がってきたり、身長が縮んできたりします。 骨粗鬆症が原因で骨折しやすいのは手首、腰、足の付け根です。特に足の付け根と腰は、骨折すると寝たきりになるリスクが高い場所です。骨粗鬆症を早期発見し、適切に対処することで予防が期待できます。内服治療、点滴治療、注射製剤など、治療の選択肢も多くありますので、それぞれの患者さんに適した治療を選べます。そういえば昔とくらべて身長が低くなったわね
骨粗鬆症の可能性があります。簡単に診断ができますよ
骨粗鬆症とは
骨の強さは、骨の量と質で決まります。骨の量を「骨密度」、骨の質は「骨質」と呼びます。 カルシウム不足が続くと、血液中のカルシウム不足を補うために、骨に蓄えられたカルシウムが骨に溶け出し、骨密度が低下します。
骨は一見すると無機質なものに感じられますが、実は常につくりかえられています。 古くなった骨を溶かす「破骨細胞」と、新しく骨を作り直す「骨芽細胞」により、新陳代謝が行われています。このバランスは閉経や加齢により崩れやすく、その結果、骨が溶けてしまい骨密度が低下するのです。
骨の質も大事です。骨はカルシウムとコラーゲンの組み合わせで構成されており、骨の構造を鉄筋コンクリートに例えるならば、カルシウムがコンクリートとすると、コラーゲンは鉄筋にあたります。 鉄筋が弱いと骨全体も弱くなるのは必然的なことです。
骨粗鬆症の診断は?
骨質を数値的に測定する方法についてはまだ研究段階で実用化されていません。
骨粗鬆症の診断は骨密度を測定し診断に活かします。
ステロイドを用いていない場合には、%YAM(Young Adult Mean 「若年成人平均値」)を参考にします。%YAMは20~44歳の健康な女性を100%としたら、現在の骨密度が何%かを示す値です。%YAMが70%未満では骨粗鬆症とします。%YAMが70-80%未満の場合にはFRAX® 計算ツールを用いて骨粗鬆症の診断を行います。すでに骨折したことがある場合は、その骨折が骨が弱くなることで起きた場合には、即確定診断となります。
ステロイドを用いている場合には、以下のフローに従い診断とします
骨密度の測定方法もいろいろな方法があります。一般的なのが、以下の3つです。
かかとの骨(踵骨)に超音波をあてることで骨密度を測定する方法です。
測定は簡便で健診などで広く普及した方法です。しかし誤差が大きく、骨粗鬆症の確定診断には採用されていない検査方法です。
人差し指の甲の骨(第2中手骨)をX線で撮影し、画像の濃淡や皮質骨の幅から骨密度を計算する方法です。骨粗鬆症の診断にも用いることができる検査法ですが、日本人で大規模に骨折リスクの検証がなされていないこと、骨折のハイリスク部位でないこともあり、信頼性はDXA法に劣ります。中手骨は海綿骨をほとんど含んでおらず、骨粗鬆症治療の効果判定に用いることは難しい検査方法です。
MD法と同じくX線を用いますが、2種類の微量のX線を用いて骨のみを計測するため、最も精度が高い方法です。
前腕部を撮像する方法もありますが、骨折を起こしやすい部位を直接測ることで、より重要で正確な評価をすることができます。
当院では腰椎・大腿DXA法が行えます
小魚や牛乳をがんばってとるようにしています 良いですね!でもそれだけでは不十分なこともあります。
食事療法の基本になるのはカルシウムとビタミンDの摂取です。カルシウム不足の状態では骨からカルシウムが溶け出すため骨量が減ってしまいます。ワーファリンを服用していない場合には、骨へのカルシウムの取り込みを助けるビタミンKの摂取も有効です。カルシウムはビタミンDの刺激で腸より吸収されるため、ビタミンD摂取も有効です。ただしカルシウムを過剰に摂取しても骨が強くならないばかりか、高カルシウム血症による脱力感,易疲労感,頭痛,食欲不振,悪心,便秘などの症状や尿管結石の出現、亜鉛や鉄などの他のミネラルの吸収が妨げられしまうなどの弊害もあります。骨質は薬物療法で改善しにくいところであり、食事療法が有効です。骨質は年齢により劣化しますが、アミノ酸の一種のホモシステインが過剰であると、骨コラーゲンの劣化が進み骨質が落ちることがわかってきました。ホモシステインを減らして、骨コラーゲンの劣化を防ぐためにはビタミンB6、B12、葉酸が有効です。
ビタミンB6は、レバーやマグロ(赤身)、ニンニク、ゴマなどに、B12はサンマ、レバー、しじみなどの貝類に、葉酸はノリや緑茶、枝豆、モロヘイヤなどに多く含まれています。
運動による刺激を骨に与えることで、骨をつくる働きのある「骨芽細胞」を活性化することが期待できます。運動は強度が強い方が骨への影響は大きいのですが、身体機能全体が落ちている場合には、長く続けられそうな運動を行うことで十分です。
骨粗鬆症の治療薬も近年様々な選択肢が増えてきました。
期待される治療効果や薬剤の投与経路なども様々で、それぞれの患者さんの状態に合わせた治療を行えるようになりました。
加齢と共に腸管からカルシウムを吸収する効率が低下するので、吸収が最もよい乳酸カルシウムを主に用います。
骨を壊す細胞の働きを抑える働きがありますが、骨密度を上げる効果は強くはありません。
ただしセロトニン作動性神経を介して中枢神経系に作用することで鎮痛作用を示す薬剤ですので、椎体骨折後などで疼痛が強い場合に週に1回筋肉注射をします。
カルシウムはビタミンDの刺激によって、上部腸管で吸収されます。ビタミンDによりカルシウムの吸収がよくなるわけです。
骨量の増加までは期待できませんが、骨量の減少を抑える効果があります。腎機能が低下している場合には、高カルシウム血症を起こすことがあるので、注意が必要です。
閉経後はエストロゲンが欠乏し骨量が低下することで閉経後骨粗鬆症を発症しますので、エストロゲンを補充することが治療となります。
しかしエストロゲンを長期間補充すると乳がんの増加が懸念されますが、SERMではこの欠点は改善されています。乳房にはエストロゲン拮抗薬として作用するため、乳がん発症率が半減するため、FDA(アメリカ食品医薬品局)のガイドラインではラロキシフェンが乳がんの発症予防薬としても認可されています。バゼドキシフェンはラロキシフェンよりも骨折を抑制する効果がさらに高い薬剤です。人種的に日本人ではリスクが少ないとされていますが、静脈血栓症のリスクが高まるため、血栓症の既往や長期間動きが制限される状況中の投与は避けたほうが良いかもしれません。
BP製剤は、カルシウム塩に対して高い親和性をもつため、生体内では骨にくっついて、骨を壊す細胞の働きを長期間にわたって抑制する効果があります。
骨量の増加効果と、骨折の防止効果を十分期待できる薬剤です。
分子構造の違いによって、骨吸収抑制作用や投与間隔が異なります。内服薬には連日服用するもの以外に週に1回や月に1回内服するタイプもあります。注射製剤もあり、月に1回や年に1回投与をするタイプがあります。BP製剤は高カルシウム血症の治療にも用いることがあり、低カルシウム血症をきたすことがあり、定期的な血液検査が必要です。骨密度の増強は4-5年で頭打ちとなり、長期使用時は大腿骨の非定型骨折を増やす可能性があるため休薬を検討します。
RANKLは骨を壊す細胞の活性を高める体内物質です。このRANKLを阻害することで、骨の吸収が抑制されるので骨量が改善します。デノスマブは骨粗鬆症に対しては半年に1回皮下注射で投与します。骨粗鬆症の他、関節リウマチに伴う骨びらんの進行を抑制する効果もあり、この場合は3ヵ月に1回皮下投与することもできます。低カルシウム血症をきたすことがあり、天然型ビタミンD3製剤を併用することが一般的です。
これまで紹介した薬剤は血中のカルシウム濃度に影響する薬や、骨を壊す「破骨細胞」を抑制する薬剤でした。テリパラチドは間欠的に投与することで、新しい骨をつくる「骨芽細胞」を活性化する薬剤です。薬価は高く、1割負担で3,650円、3割負担で11,000円しますが、従来の薬剤よりも骨密度を上昇させ、新規椎体骨折の発生率を著しく低下させる薬剤で、椎体骨折に伴う疼痛の改善効果も期待できます。血中のカルシウム濃度が上がりすぎてしまう場合があり、投与後のモニタリングが必要です。最長で2年間の期間限定で投与を行い、毎日自己注射する製剤、週に2回自己注射する製剤、医療機関で週に1回投与する製剤の3種があります。連日製剤は針は非常に細くて痛みが少なく、週2回製剤は扱いが簡単なオートインジェクター製剤です。
体内にはスクレロスチンという物質があり、骨をつくる働きを抑制し、骨を壊す働きを促す作用を持ちます。ロモソズマブはスクレロスチンの働きを抑制することで、骨の形成促進と骨の吸収抑制のどちらにも効果を発揮します。毎月1回皮下注射を12か月までの期間限定で行います。閉経後骨粗鬆症患者を対象とした臨床試験では、骨密度を上昇させて骨折リスクを抑制しており、最も効果が期待される薬剤ですが、副作用として心血管イベントリスクの上昇するため注意が必要な薬剤です。
骨吸収を抑制する薬剤では顎骨壊死に、BP製剤では長期服用による非定型骨折に注意して観察することが大事です。
顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016によると、顎骨壊死のリスクとして、悪性腫瘍、併用薬(抗癌薬、ステロイドなど)や口腔内の不衛生がリスクとなります。
骨吸収を抑制する系統の薬剤もリスクになり、この場合はARONJ(骨吸収抑制薬関連顎骨壊死)と呼びます。BP製剤、デノスマブ、ロモソズマブが骨吸収関連薬にあたります。
これらの薬剤での治療を検討するときは、侵襲的な歯科治療を先にすませておき、口腔内を清潔に保って定期的な歯科検診をすすめています。
非定型骨折とは、骨粗鬆症による脆弱性骨折とは異なる特徴を持つ骨折です。
BP製剤内服継続がリスクとなるとされますが、非定型骨折の発生頻度は10万人当たりで年3.2~50例ときわめて少ないので、十分な研究が進んでいない分野です。BP製剤の5年以上の使用例で発生する傾向があり、BP製剤の使用中止で発生頻度が低下する報告があることから、漫然とした使用継続には注意がひつようです。デノスマブでも報告があり、骨吸収抑制薬と関連がありそうです。
BP製剤の服用は「起床時コップ1杯の水でしっかり錠剤を服用し30もしくは60分は横にならないことととされます。唾液など少ない水分で服用したり、服用後に横になり胃から食道に戻ってきてしまった場合には食道穿孔を起こす恐れがあります。指示通りの服用方法を遵守しましょう。
ここでは骨粗鬆症の診断と治療法について簡単に解説しました。どのような場合に骨粗鬆症の治療をしたらよいのかといったことや、治療を継続する上での注意点などお分かり頂けたでしょう。
当院では骨密度測定として信頼性の高を腰椎・大腿骨を用いたDXA法を導入していますので、骨粗鬆症が気になる方はお問合せ下さい。骨密度による骨粗鬆症の診断について
測定方法について
超音波測定法(QUS法)
MD法
DXA法
どのような治療があるの?
骨粗鬆症の治療方法は?
食事療法
運動療法
薬物療法
01カルシウム製剤
02カルシトニン製剤
03ビタミンD
04SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)
05ビスホスホネート製剤(BP製剤)
06RANKL阻害剤
07テリパラチド
08ロモソズマブ
治療中に注意をすることは?
顎骨壊死とは
非定型骨折とは
BP製剤内服時の穿孔について
骨粗鬆症で受診される方へ