血糖値だけでなく、体重もしっかり減る!?マンジャロとは?
糖尿病治療は年々進化しており、SGLT阻害薬やGLP-1受容体作動薬の登場で治療に対する考え方も大きくかわりました。以前の治療では改善しにくかった例でも血糖値が改善するだけでなく、減量も期待できるようになりました。
このような薬剤の中でも、際立つ効果を持つ「マンジャロ」が2023年4月から処方可能になりました。
新薬「マンジャロ」の特徴について解説します。
期待!
マンジャロはどのような薬なの?
マンジャロは2023年4月18日に、2型糖尿病の治療薬として認可された薬剤となります。主成分はチルゼパチドです。 これまでGLP-1受容体にしか作用しなかった薬剤(バイエッタ、ビクトーザ、ビデュリオン、トルリシティ、リキスミア、オゼンピック、ウゴービ)とは異なり、マンジャロはGIPにも作用することが特徴の”GIP/GLP-1受容体作動薬”です。
GLP-1とGIPについて
GLP-1(グルカゴン様ペプチド -1)
GLP-1は下部小腸にあるL細胞から分泌される消化管ホルモンの一種です。GLP-1は食後に血糖値をさげる唯一のホルモンであるインスリンの分泌を膵臓に促すため、血糖値の上昇を抑制する効果があります。さらにGLP-1には視床下部室傍核に作用し摂食中枢に作用することや、胃の動きを抑える作用で胃が空になりにくくさせることで、食欲を抑制し食事量を減らす効果があります。GLP-1の中には心血管イベントを減らす報告があるものもあります。
GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)
GIPは上部小腸にあるK細胞から分泌される消化管ホルモンです。GIPも食欲を抑制しインスリン分泌を促進しますが、糖尿病治療薬に成りうるかは当初疑問がもたれていました。 血糖値が高い状態が続いている場合にはGIPによる効果が薄れることや、肝臓から糖を産生し血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴンの分泌も促すためです。 しかしグルカゴンにもインスリン分泌を促す作用があることや、中枢神経における食欲抑制、消化管における蠕動運動抑制、褐色脂肪における熱産生促進等の作用など、抗肥満ホルモンとしての側面もあることが分かってきました。またGIP受容体作動薬に、満腹を早くし代謝を亢進する作用を持つ"レプチン"の分泌を誘導することも分かってきました。(Diabetes Obes Metab 25(6):1534-1546, 2017)
自己注射は意外と簡単
自分で打つ注射なんて絶対に無理!と思われる方も多いと思います。しかしマンジャロやトルリシティに採用されたデバイス「アテオス」は、薬と針がすでにセットされた専用のペンになっており、キャップを外してペンを皮膚にあてボタンを押すだけで簡単に注射ができます。注射針も見えないようになっており、一般的な"注射"のイメージとは異なって怖さが軽減される工夫がされており、採血で用いる針よりも細い針が採用されているため注射時の痛みも感じにくいです。
これなら出来そうです!
マンジャロの体重減少効果
新薬になりますが、すでに日本人でのデータや、他剤と比較したデータも多く非常に参考になります。
マンジャロ VS オゼンピック 1.0mg(SURPASS-2試験)
背景 |
2型糖尿病1878人(日本人0%), 平均BMI 34.2, 56.6歳, HbA1c 8.3%, メトホルミン内服あり |
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これまで最も減量効果を認めたのが、オゼンピック1.0mgです。このオゼンピックと直接比較した試験が、SURPASS-2試験です。マンジャロは標準容量と考えられる5mgですでにオゼンピック1mgよりも効果が高く、-7.6kgの減量を認めました。15mgについては-11.2kgの減量効果を認めています。(N Engl J Med 385(6):503-15,2021.)
マンジャロ VS トルリシティ(SURPASS J-mono試験)
背景 |
2型糖尿病636人(日本人100%),平均BMI 28.1, 平均56.6歳, 平均HbA1c 8.2%, 内服1剤あり |
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SURPASS-2試験には日本人は含まれていませんでしたが、今度は日本人のみのデータです。GLP-1受容体作動薬であるトルリシティと比べても、日本人2型糖尿病に対してマンジャロは体重減少効果は驚くほど高く、最大容量の15mg投与群では、52週時点で10kg以上の減量効果がありました。(Lancet Diabetes Endocrinol 10(9):623-33,2022.)
マンジャロの血糖降下作用
マンジャロ VS オゼンピック 1.0mg(SURPASS-2試験)
オゼンピック1mgと比較しても、マンジャロは5mg/週以上で血糖降下作用が上回り、投与開始40週後のHbA1cは2%以上改善しました。
マンジャロ VS トルリシティ(SURPASS J-mono試験)
トルリシティと比較してもマンジャロの効果が上回り、投与開始52週後のHbA1cは2%以上改善しています。日本人の2型糖尿病患者さんが対象の試験のため、とても意義が深い結果となりました。
マンジャロの薬価
マンジャロは週1回の皮下注製剤です。2.5mgから使用を開始し4週間後に5mgに増量します。もし治療効果が不十分であればその後に7.5mg、10mg、12.5mg、15mgまでそれぞれ4週間以上あけて増量することもできます。
2023年のマンジャロの薬価は以下のようになりました。
マンジャロ2.5mg |
1924円/本 | (3割)577円/本 |
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マンジャロ5mg |
3848円/本 | (3割)1154円/本 |
マンジャロ7.5mg |
5772円/本 | (3割)1732円/本 |
マンジャロ10mg |
7696円/本 | (3割)2309円/本 |
マンジャロ12.5mg |
9620円/本 | (3割)2886円/本 |
マンジャロ15mg |
11544円/本 | (3割)3463円/本 |
マンジャロを月に4本用いる場合、お薬代は3割負担で約2300円~14000円になります。
マンジャロの有害事象
血糖降下薬1剤のみの治療で血糖管理が不十分な日本人2型糖尿病患者433名を対象に、マンジャロを追加した場合の有害事象の発言割合を評価したのがSURPASS J-combo試験(Lancet Diabetes Endocrinol 10(9):634-44,2022.)です。
マンジャロで多くみられる有害事象は悪心、便秘、食欲減退、下痢などの胃腸障害であり、重症低血糖は認めませんでした。サブ解析ですが、併用薬別の有害事象の発現割合は薬剤間で大きな差はない印象です。
まとめ
糖尿病の新薬として先日登場したマンジャロについて解説しました。
上記で解説したように、糖尿病と肥満症に対して従来の薬物療法とくらべて格段とも言える効果が期待できる薬剤です。
新薬に対する処方制限のため2週間毎の通院が必要になること、週1回の自己注射になり内服療法より費用がかかることが難点ですが、既存の治療で行き詰っている場合には、とてもよい選択肢となるでしょう。