帯状疱疹ワクチンについて
現在、国内では帯状疱疹を予防するためのワクチンは2種類存在しています。
『乾燥弱毒性水痘ワクチン』は水痘(みずぼうそう)の生ワクチンですが、2016年に帯状疱疹に対しても適応が拡大されました。
2020年には、不活化ワクチンとしては初めての製剤となる『シングリックス』が認可されました。
それぞれの特徴を解説します!
帯状疱疹とは?
すでに自分の神経に潜伏している水痘・帯状疱疹ウイルスが活性化することで発症する疾患です。水痘・帯状疱疹ウイルスは、多くが10歳までに感染し、水痘(みずぼうそう)の原因となります。水痘が治癒しても、水痘・帯状疱疹ウイルスは身体から除去されず、神経細胞に残り続けます。みずぼうそうを発症した覚えがないから大丈夫、と思いがちですが、2015年の国立感染症研究所の調査では日本人成人の9割以上でこのウイルスをすでに保有しており、80歳までに3人に1人は帯状疱疹を発症すると言われています。(Open Forum Infect Dis. 4(1): ofx007, 2017)
帯状疱疹は通常であれば左右のどちらかに発症し、ピリピリとした痛みを伴う皮疹が出てくるのが特徴です。皮疹自体は、赤い斑点→水ぶくれ→かさぶたになって治る経過をとります。通常であれば、皮膚症状が改善すると痛みも治まってきます。
神経的な痛みが特徴
帯状疱疹の少なくない合併症として帯状疱疹後神経痛(PHN)があります。
50歳以上の患者さんでは、2割がPHNへ以降するという報告 (治療90(7):2147,2008)もあります。PHNになると、焼けるよな刺すような痛みや、触れるだけで痛みを感じるようなアロディニアと言われる状態となることもあります。神経障害性疼痛に有効な鎮痛薬に加えて、神経ブロック治療などを組み合わせることもありますが、治療が困難なことも多いのです。
神経細胞に潜んでいる水痘・帯状疱疹ウイルスは、免疫力が低下すると活性化し、神経と皮膚に炎症を起こしながら体表に出現します。免疫力が低下する原因は様々なのですが、加齢の影響は大きく50歳以上で発症率が急増することが明らかになっています。(日臨皮会誌 29(6):799-804,2012) このように50歳以上では帯状疱疹を発症するリスクが高まりますが、ワクチンで予防することができます。 『乾燥弱毒性水痘ワクチン』と『シングリックス』で効果や特徴がかなり異なります。 『水痘ワクチン』は、病原性を弱めた細菌やウイルスそのものを成分とした生ワクチンです。『シングリックス』は、病原性をなくした細菌やウイルスの一部を成分とした不活化ワクチンです。 以下に2種類のワクチンの特徴をまとめました。 それぞれについて解説します。 米国、欧州を含む 60 以上の国又は地域で承認されている ZOSTAVAX®と本質的に同じ薬剤で、2016 年 3 月 18 日に「50 歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」に対する「効能・効果」が追加承認された生ワクチンです。 SPS試験(N Engl J Med. 352(22):2271-84,2005)では60歳以上で51.3%、ZEST試験(Clin. Infect. Dis 54:922-928,2012)では50代で69.8%の予防効果が認められています。 帯状疱疹後神経痛の発症については66.5%減少しました。(SPS試験) SPS試験のサブ解析では、60代で64%, 70代で41%, 80代で18%と、高齢になるほどワクチンの有効率が下がることが報告されています。 接種後6年後の発症予防効果は30.6%でした。(Clin Infect Dis 55(10):1320-1328,2012) 水痘ワクチンの主な副反応は、接種部位の疼痛・腫脹、発疹、発熱です。 接種1-3週後の発熱や、全身の発疹(3-5%)が出る場合があります。 重篤な副反応はアナフィラキシーですが、ワクチンに一部の抗生剤の成分が含まれているため注意が必要です。 その他、生ワクチンのため、注意をする点が多くあります。 接種後2か月間は妊娠を避ける必要がありますし、以下に該当する方の場合は、このワクチンを投与することはできないので、注意が必要です。 皮下注1回で完了です。 持続効果が少ないですが、5-10年後に再投与を行うことができます。 他の生ワクチンの接種は27日以上あける必要があります。 他の不活化ワクチンとの接種間隔の制限はありません。 コロナワクチンとは2週間隔をあける必要があります。 シングリックスは水痘ワクチンと比べて、①有効性 ②帯状疱疹後神経痛の予防 ③長期予防効果 に優れています。 臨床試験では50歳以上を対象としたZOSTER-006試験(N Engl J Med. 372(22):2087-2096, 2015)で97.2%の発症予防効果が、70歳以上を対象としたZOE-70試験(N Engl J Med.375:1019-1032,2016)では91.3%の有効性が、同じく70歳以上を対象としたZOSTER-022試験(N Engl J Med.375(11): 1019-1032,2016)では89.8%の有効性を認めました。 ZOE-70試験では、 帯状疱疹後神経痛の発症予防効果は88.8%あり、高い有効性を証明しています。 長期予防効果を検証した報告(Open Forum Infect Dis.9(10) Oct 2022)では、ワクチン接種から10年経過していても、73.2%の高い有効性を保っていました。 水痘ワクチンと比べて①痛い ②腫れる ③倦怠感が強いワクチンです。
シングリックスの主な副反応は、接種部位の疼痛(78%)、腫脹(38%)、筋肉痛(40%)、疲労感(39%)、発熱(18%)、胃腸症状(13%)です(ZOSTER-006/022併合解析)。
筋肉注射を合計2回する必要があります。 2回目は2ヶ月後に行うことが推奨されており、遅くとも6ヶ月後までに接種する必要があります。 他の不活化ワクチンや生ワクチンとの接種間隔の制限はありません。 コロナワクチンとは2週間隔をあける必要があります。 2種類どちらのワクチンも、50歳以上の方が対象になります。 いずれのワクチンも当院で接種可能です。 ※1週間前からの事前予約が必要になります 乾燥弱毒性水痘ワクチンは1回皮下接種です。 シングリックスは2カ月間隔で2回筋肉内接種です。合計で44,000円の費用がかかります。 一部自治体では、帯状疱疹ワクチンの助成が受けられますのでご確認ください。 一部企業でも助成事業がありますので、お勤め先にご確認ください。 ※群馬県では残念ながらワクチン補助事業はありません。 2023年4月より前橋市在住の50歳以上の方を対象に助成事業が始まりました。 渋川市、沼田市内在住の50歳以上の方で当院で行う接種も助成対象となります。詳しくは各自治体のホームページをご覧ください。 これまで2種類のワクチンについて説明してきました。これを表にまとめると、つぎのようになります。 どちらのワクチンがよいか悩ましい場合は、以下を参考にしてください。 これまで説明したように、水痘ワクチンとシングリックスにはそれぞれの長所・短所があります。
帯状疱疹や後遺症である神経痛の発症をしっかり予防したい方や、生ワクチンが接種できない方はシングリックスをお勧めします。
水痘ワクチンについても、50代では発症率を1/3に減らす十分な効果があるため、それぞれのライフスタイルに合わせて選択をしましょう。 ワクチン接種を考えている方は、お気軽にご相談ください。50代から発症率が急増する
ワクチンは2種類あります
水痘ワクチンの効果
水痘ワクチンの副反応や注意点
!水痘ワクチンが受けられない場合
水痘ワクチンの接種方法
シングリックスの効果
シングリックスの副反応や注意点
!シングリックスが受けられない場合
シングリックスの接種方法
ワクチンの費用は?対象者は?
どちらのワクチンを打ったらよいですか?
まとめ